麗雅

           by 千代子さん


 身体中が重く気だるく、薄目を開けるのも億劫になりながら、ユーリはいま、確かに自分の右腕が誰かによって持ち上げられているのを感じた。
 こういうとき誰かなどと考えるのは無駄なことで、傍らのカイルに違いないそれにユーリは眠りを妨げられた腹いせもほんの少し含めて、汗に濡れた身体をすり寄せて彼の動きを邪魔した。
「…こら…ユーリ……」
 身体の上にかぶさる白い肌をそっと押し戻しながら、カイルは囁いた。
「少しじっとしているんだ」
「……いや」
 だだっ子のように彼の胸に顔をうずめて、ユーリはまどろみながらカイルの匂いをいっぱいに吸い込んだ。
 寝ぼけ眼で甘えるユーリがかわゆく、カイルはたまらず愛しさが込み上げてきたが、とりあえずは腰のあたりをさまよっている上掛けを引き揚げ、こめかみに唇を寄せた。
「もう…カイルったら…」
 優しいキスをくれるのにどうしてしつこく腕をとるのかしら?
 ユーリは眠たい瞼を持ち上げて、傍らのカイルの顔を覗き込んだ。
 さきほどの激しさはどこへやら、穏やかな笑みを浮かべたカイルは、なにやらユーリの手首に巻き付けているらしい。
「……?」
 急に重さのかかった自分の右腕を見て、ユーリは一瞬それがなにか判らなかった。
「…おまえのために作り直させたよ」
「え?」
 金属の擦れる音に手首を見れば、そこにあるのはどこかで見覚えのある赤い石をはめ込んだブレスレットだった。
「これ……?」
 目の高さまで持ち上げて気がついた。これは確かに、あのとき赤い河に散った彼の額飾りではないか。
「どうして…あの額飾りは壊れたからハディに……」
 大切にしまっておくよう頼んだ。この額飾りがカイルの身に起きたことを知らせてくれた。だからこそ、大事に大事にしまっておくつもりだったのに、どうしていまこれが形を変えてここにあるのだろう。
「おまえから話を聞いて、内緒で直させてた。…大切なものだから、いつまでも身につけておいて欲しいんだ」
 そう言って、カイルは愛しそうにユーリの腕をなであげた。
「でもまた壊れちゃったら?」
 彼の身に危険があったから割れたものが、もしまた再び割れたときのことを考えると、恐ろしさに知らず身震いしてしまう。
「…壊れないさ」
 そんなユーリの不安を感じたのか、カイルは優しくユーリを抱きしめた。
「もう二度と壊れないよ」
 もともと結ばれるはずのなかった二人が愛しあっている奇跡、そのまえにはどんな困難さえ乗り越えてゆける自信がある。
「ほんとに?」
 不安げなユーリの瞳は、その奥にカイルと同じ情熱を宿している。
「ずっとこのままでいたい。カイルとずっと一緒にいたい」
 すんなりした細い腕が、ほの明かりの中で赤く反射しながらカイルの首に巻きついた。
「大好きよ、カイル」
 唇の抱擁を交わしながら、ユーリはまたひとつ、カイルとの間に幸せになるための約束を作れたと思った。


                 (おわり)








    

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