ナッキー☆ヒネモステイスト

                                      byチィさん

 ヒッタイト後宮の一室で、皇帝側室の侍女が書き物をしていた。
「桜井くんへ。はじめまして、遠い国からいつもあなたを応援しているヒネモス・ヒネスモといいます。私はいつもいつも、あなたのその笑顔に励まされ、侍女のお勤めを果たしています。宮仕えは本当に大変です。私はナキアさまと言う皇帝陛下のご側室にお仕えしているのですが、その方のせいで大変縫い物が上手くなりました。というのも、・・・・・・・・ (中略) ・・・・・・いつもあなたを想っている、ヒネモスより。」
「ふうん、おまえ、それが『ふぁんれたぁ』とかいうモノなのか?」
「ひィィィィィィィッッ!!」
 いちばん見られたくない相手に肩越しに覗き込まれ、侍女は悲鳴を上げた。
「ナ・・・ナキアさま・・・・いつからいらっしゃったのですか?」
「ナッキー☆ヒネモステイストからいたぞ?」
「ひ・・・ひぇぇぇ・・・・」
 顔面蒼白、その熟語を見事に体現してみせた侍女は、機敏に床を這ってこそこそと逃げだした。
 なぜ機敏かと言うと、日頃ナキアから存分に鍛え上げられているからである。
 もちろん、胸にはしっかりと桜井くんへの書簡を抱きしめていた。
「おまちっっ!!」
 待てと言われて待つワケがないのを知ってか、言葉と同時に誇り高きヒッタイト皇帝の側室はヒネモスにタックルをかました。
「ああ、姫さまいいかげんに暴力は・・・」
侍女は心底悲しそうにため息をついた。あお向けでべちゃりと床にたたきつけられ、背中にナキアに乗っかられた状態で。哀れである。
「お見せ!」
 隙を突いて、瞬時に書簡を奪い取る。これこそバビロニア第一王女の成せる技
である。
「ああっ、姫さまっ!!人の手紙をお読みになるなんて、悪趣味ですわ!」
「なんとお言いだい?」
「人が書いた手紙をお読みになるなど、悪趣味だと申し上げたのです!これでは陛下の寵もいただけないばかりか、バビロニア王女の名折れですわ!!それに姫さまは一国の王女でいらっしゃるのですから、下々の者が書いたような・・・・」
 なんとか読まれるのだけは避けたいがため、侍女は懸命に理屈をならべたてたがやはりナキアにはかなわない。必死の努力も黒い水の泡である。
「おまえ、そういうのを屁理屈と言うのよ。覚えておおき!」
「はあ・・・・。」
 まだしつこくヒネモスの上に居座りながら、ナキアは書簡に目を通す。その目は好奇心に満ち、らんらんと輝いている。
「ふうん。宮仕えはそぉんなに大変なのか。で、わたくしのお陰でなんですって?」
「いえ、あの、教養深く家庭的な事に長けていらっしゃる姫さまが、縫い物も料理もご指南くださっていると・・・書き直そうと・・・・」
「家庭的なことにも!でしょう?まあいいわ。」
「ええ、あー、あの、姫さまは大野くんがお好きだと前におっしゃっていましたし、ファンレターお書きにならないのですか?」
 話題を変えたくてたまらないヒネモスは、ここぞとばかりに話をくるりと転がした。
「ん?なぜわたくしがパシリ用の男に手紙を書かねばならない?」
 純粋に不思議そうな顔で、ナキアは言った。侍女はなんだか肩の力が抜けたような気がした。この姫さん、実は天然か?と言う疑惑さえ浮かんでくる。
「まあ、それもいいな。せっかくだし、書いてやろうか。」
 ナキアの関心を他の物に向けたくてたまらなかったヒネモスは、喜びもひとしおだ。
 ただ、「書いてやろうか」の「やろう」をやけに強調したのが気になっていたが。
「宛先はどうするのだ?おまえちゃんと調べておいでだろうね?」
「ええ、それでしたら会報に・・・」
「おまえ、このわたくしに隠してファンクラブにまで入っていたのね?!」

―――こんな筈じゃなかった。こんな筈じゃなかったのに。
 ナキアの重みに耐えながら、ヒネモスは心の中でハンカチ噛み締めつつほろりと涙を流した。
 桜井くんは、姫様のお付きで遠いヒッタイトに来てからの私の唯一の慰めだった。
 ナキアさまのお世話も文化の違いもホームシックも時差ボケも、桜井くんを想って乗り越えてきた。
 ひっそりと、淑女のごとく桜井くんを想い、胸の中に閉じ込めておくつもりだったのに。
 なんでこんなことになっているのだろう。
 もういいわ、私の人生はこの姫さまにふり回されるようにできているんだから。

「そろそろ浸るのをやめろ、ほら、その会報とやらを出せ!」
「それではいい加減おのきいただかないと、立ち上がれませんわ。」
 ナキアは、いまだ侍女の背中に居座っていた。
「おまえがいつまでもそこに居るからいけないのよ。」
 ナキアは、どっこいしょ、と重い腰を上げた。侍女は「年増っぽい」とコメントしようとしたが、ため息をひとつついてジャニーズファンクラブの会報を取り出し始めた。


                以上ですっ!

       

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