KISS×KISS×KISS
                            

「皇帝陛下にあらせられましては、無事のご帰還おめでとうございます。帝国内では陛下の御威光、ますます盛んで・・」
 頑張って覚えたセリフは、戦車から降りてきたカイルが、あたしをひょいと抱き上げてキスしたから最後まで言うことが出来なかった。
「・・・」
「ただいまユーリ、会いたかったよ」
 せっかく正装して皇妃らしい威厳を出そうと思ってたのに。文句を言おうかと思ったけど、カイルの琥珀色の瞳が間近にあって、言えなくなる。
 カイルの首に抱きつく。
「うん、会いたかったカイル。お帰りなさい」
 並ぶ高官や皇族の間、ついでに歓迎の民衆の真ん前を、あたしはカイルに抱き上げられたまま王宮に入った。
「長い間、留守を守っていてくれたんだな」
「ううん、カイルも視察ごくろうさま」
 ヒッタイト帝国は広い。皆が平和に暮らしているか、国境が侵されてはいないか、隅々まで目が届くように、皇帝であるカイルはときどき視察に出ないといけない。
 あたしはタワナアンナだから、くっついて行きたいのを我慢して、ハットウサで政務を執る。カイルの代わりに書簡に目を通し、カイルのいない玉座の横で、元老院会議を開く。
 役不足だとは分かっているけれど、カイルがたった一人で守ろうとしている大切な国を、あたしも守りたいと思っている。
「あのね、カイル。元老院が帰還祝いの宴を開くって」
「宴より、お前と二人きりになりたいな」
「もう・・」
 それは、あたしだって同じ。ずっと離れていたんだもん。
「そおゆう訳にはいかないでしょ」
「そうだな」
 もういっかい、キスをする。それから、共犯者の顔で。
「楽士がでたら、引き上げよう。皆はそちらに気を取られるはずだ」
「皇帝皇后がいなくなったら、気がつくよ」
 こんどは、あたしからキス。これは、軽くたしなめたって意味。
「かまわないさ。帝国中駆け回ったんだ、褒美をもらってもいいだろう?」
「だめ」
 ちょっとむくれたカイルの顔に、おでこを合わせる。
「ご褒美もらうのは、あたしよ。ちゃんとお留守番してたんだから」
 つぎにきたのは、同意のキス?



 さてさて、あたしたちは首尾良く宴会を抜け出した。議員の何人かがこっちを見ていたけど、仕方がないっていう風に首を振っていた。
 カイルと手をつないで、後宮まで走った。衛兵が目を丸くしてたけど、気にしない。
 だって、久しぶりだから。
 あたしの部屋の扉を開けると、カイルがあたしを抱えて、寝台にダイビングした。
 二人で転がって、ひとしきり笑う。重いネックレスや、髪飾りをぽんぽん投げながら、息を弾ませる。
「さて、ユーリ、お留守番のご褒美には何が欲しい?」
 あたしは、金の腕輪を手首から抜いて、部屋の隅にほうった。明日探すのタイヘンだろうな、ごめんね、ハディ。
「ねえ、カイル、目を閉じて」
 寝台の上に座って言う。カイルが目を閉じた。なんだかとっても神妙な顔。
「カイルがいない間、ぜんぜん足りなかったの」
 それから、カイルの肩に手をかける。一つ。
「これは、おはようのキス」
 もう一つ。
「行ってらっしゃいのキス」
 もう一つ。
「お昼ご飯の時のキス」
 あたしは、足りなかったキスを、カイルにする。何回も。
「それから・・これが、おやすみの・・」
 カイルの手が、手首を掴んだ。開いた琥珀がきらきら光っている。
「ダメだな、ユーリ。おやすみは・・・まだだ」
 そういうとカイルはあたしの身体をすくい上げた。背中に柔らかい寝台の感触を感じながら、降りてくるキスを待つ。カイルの声が、ささやいた。
「愛してるのキス」


                     おわり

     

   

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