愛ゆえに…

                                  byきくえさん


「…ユーリ、朝だよ・・・」
 遠くのほうでカイルの声が聞こえる
 起きなきゃ・・・
 そのうち唇に甘い刺激が伝わってくる
「・・あっ・・カイル?」
 何とか目を開けるとカイルの笑顔がそこにあった
「おはよう、ユーリ。珍しいな、お前の方が遅く起きるなんて。」
 心なしか顔が嬉しそうに見える
「う〜ん・・・おはよう、カイル」
 何だろう・・・体がだるい。腕を上げるだけで痛みが走る。
 まさかこれは・・・


 朝食の席で子供たちがなにやら楽しそうにカイルにしゃべりかけている。
「・・・ねっ!母様もそうでしょ?」
 デイルの声にはっとする。
「あっ・・ごめん。なんだったっけ?」
「も〜聞いてなかったのぉ〜?また湖に行きたいねって言ってたの!」
 少し口を尖らせてピアが言う。
「ごめん、ごめん。そうね、また行こうね。」
 隣に座っているカイルが少しむっとした。
「まったく・・昨日はよくも私一人を置いて3人で、湖なんていいところに行ったな!父様は仕事をしていたのに・・・しかし、ユーリは水の中に入らないんだからかえって暑いだろう?」
 ギクッ!!!!
「え〜そんな・・フガッ」
 ピアの口をデイルが慌てて塞ぐ
「そんな事ないよ、父様!すぐ近くに木があって、影が出来てて涼しいから!さっ、ピア 双子と遊ぶぞ!」
 嫌がるピアをずるずる引き連れてデイルが部屋を出ていった。あたしに笑いかけるのを忘れずに・・・
「・・・なんなんだ?一体・・・」
「あっあはははは・・なんなんだろうねぇ」
 デイルの突然の行動に不信がるカイルに対して、あたしは笑うしかなかった・・・


 今日はユーリの様子がどうもおかしい。ぼーっとして、いつもより動作がゆっくりしていて歩くのも遅い。
 気分でも悪いのかと思って訊いてみても
「そんなことないよ」
 と、笑って答える。確かに顔色も悪くないし、食事もきちんととっている。病気ではないようだから・・・
 まさかっ・・・!子供なのかっ?!
 一つの可能性に心が弾む
 しかし・・なぜ私に言わないんだ?・・そうか、照れていてなかなか言い出せないんだな。
いつまでたっても初々しくてかわいいなぁ
 そんなふうに思いを巡らせているうちにユーリが部屋に入ってきた

「や〜っと二人とも寝てくれたよ。・・ん?どうしたの そんな顔して」
 そんなに顔に出ていたのか?まぁいい。手招きをして、ベッドの縁に座っている私の元へユーリを呼ぶ。
 とことこ歩いてやってきたユーリをぎゅっと抱きしめて、膝の上に乗せる
「ユーリ 私に何か言わなければならないことがあるだろう・・?」
 耳に息を吹きかけながら囁く。ユーリの体が震える
「な、なにもないよ?何の事?」
 それで隠しているつもりなのか?
「何もないことはないだろう?だったらなぜ今日はぼーっとしてたんだ?さぁ・・白状するんだ」
 こんどは耳朶を噛みながら囁く。ユーリの体が強張った
「・・・怒らないって約束してくれる・・?」
 ?なぜ私が怒らなければならないんだ。ユーリがベッドに上って正座をする
「私が怒るわけないだろう?さぁ、なぜなんだ?」
「・・・筋肉痛だったの・・・」
 ・・・はっ?
「筋肉痛って・・昨夜はそんなに・・」
「あっ、あのね、昨日デイル達と湖に行ったじゃない?それで・・その・・」
 まさか・・・
「まさか一緒になって湖で泳いでたんじゃないだろうな・・・?」
「ごっ、ごめんなさいっ!!」

そう。昨日ユーリは、政務が珍しく午前のうちに終わったので、デイル、ピア、三姉妹と共にハットゥサの西の外れにある小さな湖に遊びに行っていた。三姉妹としてはまさかユーリまで水の中に入るとは思ってもなかったが、ユーリは始めから入る気でいた・・・子供たちの着替えに自分の分も潜ませて・・・
子供たちには自分も泳いだことを絶対カイルに言わないよう、堅く口止めをしておいたのだ。

「最初は膝丈ぐらいのところまでしか入ってなかったんだけど、あんまりデイルとピアが楽しそうに泳いでるから・・つい・・・」
 目の前が真っ暗になった・・・ユーリが私のいない所で水に入った?
 つまり・・男が見たかもしれないということか・・?
 今朝のデイルのおかしな行動はこのためか。どうせ菓子でつられたのだろう
 父様には内緒だと・・・

「『つい』泳いだのか・・・」
 怒りを押さえるために声が低くなる
「あっ!でも、他に人影なんて全然無かったし、あたしは服も着てたし!」
 私を安心させてるつもりなのか?しかし、そうゆう問題ではない。
「水から出てからだって服が濡れていては意味が無いじゃないか!!」
 思わず大声を上げてしまう
「大丈夫だよぉ〜ちゃんと着替えの服も持ってったし、体を拭くために布もいっぱい持ってったから!」
 誇らしげにユーリが言う。怒る気力も無くなってくる・・・ん?着替え?
「着替えを持っていったって事は始めから入る気だったんじゃないか!!」
「だから怒らないでって言ったんじゃない・・・」
 だんだんユーリの瞳が揺らいでくる
 そんな顔をされると怒れなくなってしまうではないか
「別に怒ってないよ、ユーリ。しかし何も筋肉痛になるほど泳がなくてもいいじゃないか」
「でもそんなに泳いでないんだよ?デイルと競争したくらいで。たぶん運動不足だったんだよ、アスランにも最近乗ってなかったし。やっぱりちゃんと運動はしておかないと駄目だね。」

 また恐ろしい事を言い出した。このままでは毎日「運動」と称して王宮を抜け出してしまう。それだけは避けなければならない。
「そうだな。しかし運動だったらアスランに乗らなくとも、ここでできるじゃないか・・」
 そう言いながらユーリに覆い被さる
 そうだ、何も外に出すまでもない。ここで疲れさせればいいのだ
 子供たちばかりユーリと遊ぶのは面白くない。私とも同じだけ遊んでくれてもよいはずだ。
「ちょっ、ちょっとカイル!待って・・んっ・・」
 抵抗の言葉は容易く封じられる
 抵抗なんて許さない。筋肉痛になりたくないと言うのなら、もう二度とならないようにしてやろう・・・これもお前への愛なのだよ・・・


 遠くで子供と側近たちの声が聞こえる
「デイル皇子、ピア皇子、駄目です!お父様とお母様はまだお休み中です!!」
「でも、もう二日も会ってないんだよ?!湖に遊びに行く約束をしてるのに!!」
 

                               おわり

       

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