と・き・め・き



「やっぱり、ヘンだよねえ・・」
 知らないあいだに言葉が口をついていた。
「なにがヘンなのですか?」
 斜め後ろにいたハディが、案の定訊いてくる。
 独り言のつもりだったんだけど。
 あたしは、曖昧に笑うと、きびすを返した。城壁の上に並んでいた、貴族や高官がぞろぞろついてくる。
 こんな時に言う言葉じゃないよね。
「殿下はご立派になられましたな」
「陛下もさぞやご自慢に思っておられることでしょう」
 交わす会話が耳に入る。
 戦車の上のデイルは、とても立派だった。
 あたしたちの息子デイルは、今回が初陣だった。戦と言っても、辺境のちょっとした小競り合いだけど。
 カイルがその鎮圧に親征を言い渡したのは、デイルを連れていくためだった。
 そろそろだと、話し合ってはいたけれどやっぱり、息子を戦場になんて送りたくなかった。
 それに、カイルだってハットウサを離れる。チビちゃんたちを連れて行けないから、あたしは留守番になる。
 ぐずぐずしているあたしを置いておいて、カイルはさっさと手配を済ませてしまった。
 少しすねていたあたしに、「すぐに戻ってくるよ」とキスを残して、カイルはデイルと行ってしまった。
 怪我をしていないか、とか、行軍のテントは眠りにくいだろうか、とか毎日考えていたあたしに凱旋の報がもたらされる。
 遠征軍を出迎えるために城壁の上に立ったあたしの前に、誇らしげな行列が現れる。
 片手を上げて祝福する。
 戦車の上で、カイルが見上げていた。


「お帰りなさい、デイル」
 神殿で真っ先に声をかけるのは、やっぱり初陣を勝利で飾ったデイル。
「ただいま戻りました、母上」
 かあさま、じゃないところが日に焼けた顔をますます大人に見せる。
「ご活躍、ハットウサにも聞こえました」
「ありがとうございます、皇后陛下・・・でも」
 急に幼い表情がのぞく。
「じつは、父さまの後ろにいただけです。やっぱりすごいって思いました」
 柱の影でうずうずしていたピアが兄の言葉に飛び出す。
「おかえりなさい、兄さま!!お話聞かせてよ!!」
 自分もついて行くとさんざん駄々をこねていたから、聞きたくて仕方ないのだろう。
 まだ、神事は終わっていないんだけど。
 あたしは、喧しい兄弟から、カイルに目を移す。
「・・・ただいま」
「お帰りなさい・・」
 言いながら目を伏せる。やっぱりヘンだよ。
 カイルの腕がそっと拡げられたので、迷わず飛び込む。
「心配したか?」
「・・・淋しかった」
 カイルの胸に顔を埋めて、懐かしい匂いを吸い込みながらやっと言う。
「・・デイルはなかなか立派だった・・良い軍人になれるはずだ」
「そう、あの子も大きくなったのね」
 絶対に、ヘンに思われる。
「なんだ、ユーリ?」
 カイルの声は優しかった。だから、甘えてしまおう。
「ヘンだよね、カイル?あんなに大きい子供がいるのに・・カイルの顔を見たら胸がどきどきしたの」
 城壁の上で、カイルを見たとき息が止まりそうだったって言ったら、信じる?
 カイルの腕が、強く抱きしめる。
「私だって、お前の姿を見たときどきどきした」
「ほんと?」
「本当だ」
 息子より気になるなんて、やっぱりヘンだよ。
 でも、あなたへの気持ちはいつまでも変わらないまま、ずっとときめいている。


「次からは・・・デイルだけ行かせるか」
「それも心配」
 
                おわり

   

       

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