花と蝶

                                  by yukiさん

 気が付くといつの間にかさがしてる。
 声が聞こえると振り返ってしまう。
 いつも一緒なのに、毎日顔をあわせているのになんでだろう。
 ひょっとしたらこの衣装のせいかもしれない。
 さらさらと肌から滑り落ちてしまいそうな薄布。
 肌の色まで透けて見えてしまいそうであたしは肩掛けを胸元でかきあわせてしまう。
 裾が足元にまとわりついて思うように動けない。
 ああ、だから皇子を目で追ってしまうんだ。
 いつもなら一緒なのに付いて動くことができないから。
 それにいつもと違うのは皇子の周りを囲む人たち。
 チビでやせっぽちなあたしとは違う女の人たち。
 華やかな衣装をひらひらとなびかせながら行き交っている。
 あの中に混ざったらきっとあたしなんて見えなくなってしまいそう。

 人影に遮られながら皇子の姿を追う。
 深く響く皇子の声が聞こえる。
 皇子がゆっくりとこちらを向く。
 真っ直ぐな視線に吸い寄せられる。

 なんで皇子を求めてしまうんだろう。
 なんで好きになってしまったんだろう。
 あたしとは世界が違う。
 こんな手が届きそうな距離だっていうのに皇子は遠い。
 伸ばした腕は皇子を囲む人たちに遮られる。
 聞こえてくる笑い声に胸が苦しくなる。
 垣間見た誰かに向けられた笑顔に引き裂かれそうになる。

 いやだ。
 こっちを見て。
 いつものように名前を呼んで。

「ユーリ!」
 突然背後から腕を回されて人ごみから引きずり出される。
 振り返れば心配そうな榛の瞳。
「どこに皇妃の手の者が紛れているかわからない。ひとりになってはだめだ」
「ザナンザ皇子・・・・・・」
「わたしでは不満かもしれないが兄上が解放されるまでは我慢してくれないか」
 カイル皇子よりも穏やかでほんの少し高い声。
 よく似た面差し。
「心配かけてごめんなさい」
 胸元に体をあずけるとカイル皇子と同じ香り。
 慌てて振り返ってみてもやっぱり人垣の中。
「どうした?」
「ザナンザ皇子からカイル皇子の匂いがしたんだけど」
 肩にまわされた腕の感触はやっぱりカイル皇子と違った。
「すまないがもう少しわたしにつきあってくれ」

 ほんの一瞬目が合うだけで鼓動が跳ね上がる。
 あなたはいつかあたしの手をとってくれる?


      

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