風の記憶

                       byなずなさん
                       (From雉鳴きシスターズ)



「ユーリ、いつまでもそんな所にいては風邪をひくよ。中へ入ろう?」
「平気だよ!風がすっごく気持ちいいよ〜」

 久しぶりの旅行。
 ・・・いや、視察も兼ねてだが、ユーリはやけにはしゃいでいる。
 泳ぎたかったのか、昼間は残念そうに舟の上から水を見つめていた。
 
 この辺一帯は川幅がとても広く、流れがほとんどない。
 さざ波は無いものの、海のようだとユーリは言った。
 夜の間、舟が止まる。
 たった今、舟が止まると、風が全くなくなった。
 船員がバタバタと中へ入る。


 残ったふたつの夕影が重なった。  
 カイルがユーリの顔へと手をのばす。
「・・・ん」
 唇を割り、甘い感触で満たす。 
「・・・ユーリ。言うことを聞かないなんて・・・悪い子だな」
 計画犯の目だ。
 まぶたにカイルの唇がふれる。
 手は、もうすでにユーリの肩紐へとのびていた。
「ちょ、ちょっとカイル・・・ここで?」
「準備は昼間からできてたはずだぞ?」
 くすっと笑うカイルの視線の先には、昼間のままにクッションや布がおいてある。
 舟の一番前だ。
「あ、あそこでっ?」
 ピクニックみたいだ〜としか思っていなかった。
 あたたかい太陽の光をあびて、カイルと食事をして・・・
 混乱しているユーリをひょいと抱きかかえると、カイルは迷わず舟の先端へ向かう。
「ま・・待って!さっき風邪をひくって言ったのはカイルだよ?中に入ろう?」
「風邪なんてひかせないよ」
「なっ・・でっでも人が来るよ?」
「大丈夫だよ」
 優秀な側近達は気をきかせることだろう。
「それに夕飯も食べてないじゃない!」
「わたしはおまえ以上に食べたいものは無いのだが・・・いやか?」
「・・・ずるいよ・・カイル」
 カイルは、遠くに広がる夕映えと同じ色をした、ユーリの頬にくちづけた。




「・・・・・ん・・・」
 口に冷たい感触が広がる。
「ユーリ、軽く何か食べるか?」
「あ・・寝ちゃったんだ・・・。」
 カイルは口にものを含むと、ユーリの口へと運ぶ。
「ハディが・・・用意したんだね」
 きまりの悪そうな顔。今更恥ずかしがることもないのに。
「・・・自分で食べるよ」
「・・・分かっているだろう?」
 否とは言えない優しい瞳で見つめられる。
 やっぱりカイルはずるいよ・・・



 野趣が漂う空間の中で、
 すんだ夜空に少し冷たい風が動く。
 ワインの最後の一口をユーリに飲ませると、少しユーリの身体がふるえた。
「寒いか?」
「ううん。平気。ねぇカイル・・・すごい星空だよ。それに月・・・奇麗だね・・。
 本当にこの同じ舟に誰かが乗っているなんて信じられない。すごく静か・・・」
「そうだな」
 カイルは冷えた身体をユーリに重ねた。
「ねぇカイル。カイルの・・・匂いがするよ・・・」
「・・・えっ?」
 カイルと身体を少し離し、ユーリはカイルの胸元へ指を這わせる。
 いつのまにこんなに冷えていたのだろう。
 冷たい指先を握ると、カイルはまた、ユーリの柔肌を刺激しはじめた。

「あ・・・」
 冷えた身体にだんだんと熱がよみがえる。
 長いくちづけ・・・
 ワインの甘い舌触りも、もう思い出せない。
 カイルの指がユーリの身体を滑る。
 唇が、数時間前に刻みつけた刻印をたどる。
 
 首筋・・・胸元・・・
 月明かりに浮かび上がった熱い印は、すでにいくつもの情熱を語る。

 カイルの舌が降りるとともに、ユーリの呼吸は荒くなる。
 求めていたところへたどり着いたとき、ユーリの視界がぼやけた。
 一瞬、身体をふるわせて、声をあげて・・・



 静かな夜・・・
 虚空いっぱいに広がる優しい光の下に、囲われた空間があった。
 ふたつの裸体に熱い風がふれる。
 少し離れたところでは、やんわりと冷たい風が大気に運ばれていた。


                       おわり

     

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