マリリンさん、奥にて3600番のキリ番リクエストは「わくわくサマー」の「おねだり」について。おねだりしなくても、ユーリの言うことならなんでもカイルは聞きそうですね。


どきどきサマー


「ねえリュイ、シャラ、かわいくおねだりってどうすればいいの?」
 あたしが訊くと双子は顔を見合わせた。
 へんなこと、訊いたかな?
「ユーリさま、おねだりって・・」
「どなたにされますの?」
 おそるおそるといった感じで訊ねてくる。
「カイルに決まってるでしょ」
 他の人にねだりたいものなんて、ない。
 なのに二人はますますヘンな顔をした。やっぱり、かわいくおねだりって無理があるんだろうか・・。
「ユーリさま、どうされました?」
 ハディが入ってくる。
 なんだか大きな箱を抱えていて、それをどっこらしょと床の上におろした。
「・・なに、それ?」
 予想はつくけど、訊ねてみる。
 案の定ハディは満面の笑みを浮かべて言った。
「まあ、陛下からの贈り物ですわ」
 ああ、やっぱり。
 双子も参加して、箱から衣装を取り出して歓声を上げている。
 まだ袖を通していない服だっていっぱいあるのに。
「こんなに着られないよ」
「陛下のお気持ちですわ、お受け取りくださいな」
 ひときわビラビラした衣装をあたしの肩にあてながらハディの声が弾んだ。
「まああ、なんて趣味の良い!!」
 そ、そうかなぁ?
「お似合いですわ!!」
「どうです、今夜これをお召しになっては。陛下もお喜びになられるでしょう」
 こんなにビラビラしたのは、もっとナイスバディな方が似合うと思ったけれど、ちょっと考えてみる。
 カイルだって、自分の選んだ衣装を着てあたしが現れた方が、気分がいいはずだ。
 うん、上機嫌にしておねだりする。
 その作戦でいこう。
「じゃあ、着る」
「「「へっ!?」」」
「それでカイルにおねだりする」
 三人はいっせいに奇妙な顔をした。が、慌てて表情を取り繕う。みえみえだよ。
「では、これと合うアクセサリーを・・」
「姉さん、いただいた中に宝石はないの?」
「手持ちのからも選べるように、私取ってくる!!」
 急に慌ただしくなる。三人は衣装だ宝石だ香油だと言いながら、部屋の中を動き回る。 なんだか分からない内に、アクセサリーがじゃらじゃら巻かれては外される。
「ちょ、ちょっとハディ」
「ユーリさまのお気が変わられないうちにっ!!」
「髪も結い上げましょう!!」
 なんだか、目が血走っている。怖い・・。
 あっというまにあたしは、ビラビラドレスにじゃらじゃらアクセサリーで飾り立てられていた・・。
「・・・ハディ・・」
 呆然としながらも、訊ねる・・。
「陛下にどんなふうにおねだりすれば・・」
「大丈夫ですともっユーリさまっっ!!」
 なぜか涙に潤んだ目であたしの手をしっかり握りしめながらハディが言った。
「あとは陛下にお任せするのです、ええ、大丈夫ですとも!!」
 ・・・なにを・・言ってるの?
 迫力に押されて双子を振り返ると、信じられないことに双子も涙を流して手を取り合っていた。
「・・ユーリさまにお仕えして○年・・ついにこの日が来ようとは・・」
「本当に、ご立派になられて・・」
 なんの話よっ!?
 ハディはあたしの手を握りしめたまま、戸口へと引っ張り、双子は背中をぐいぐい押してくる。
「ささ、陛下の御寝所へ!!」
「まだ、早いよっ」
「大丈夫です、愛は時間を超えるのです」
 訳の分からないことをハディは言った。
 そして、流れる涙をぬぐおうともせず、まっすぐにあたしを見つめる。
「ユーリさま、私は長年ユーリさまに仕えて参りましたが、以前からその初々しさがユーリさまの美点だとはいえ、もどかしく思うこともありました」
「もどかしい?」
 ハディはきっぱりとうなずいた。
「陛下はこよなくユーリさまを愛しておられるとはいえそこは男性ですもの、時々はユーリさまからと願われても不思議ではありません」
 あたしから、なんだって?
「今宵、ユーリさまからねだられるなんて、さぞかしお喜びのことと」
「ちょっと待って〜っ!!」
 なにそれ?なにそれ?あたしがねだるって、つまり??
「ユーリさまも大人になられた・・」
「ちが〜うっ!!」
 真っ赤になりながらあたしは叫んだ。
「ねだるっていうのは、そうじゃなくってっ!!」
 ああ、信じられない。感涙にむせぶ三姉妹に押されて、あたしはいつのまにか後宮の廊下で立ち往生していた。ここって、結構通行量が激しいのに。
 道行く女官が頭を下げながら、会話に耳を立てている。
 そりゃ、女官長が泣いてるんだからね、聞きたくもなるだろうけど。
 こんなことがカイルの耳に入ったら・・。
 不穏な音が聞こえてきた。
 後宮の廊下を全力疾走できる人物を他に知らない。
「ユゥゥゥリィィィッッ!!」
 だんだん高くなる声(ドップラー効果というのか?)で、急速に近づいてくる人影。
 姿を認めると同時に、あたしの身体は床から離れた。
「会いたかったよ、ユーリ!!」
 今朝、会ったけど。
 カイルはあたしをかき抱きながら、震える声で言った。
「おまえが私に会いたがっていると知って飛んできた」
 誰よ、カイルの耳に入れたの!?
「ああ、ユーリ私は幸せだ。おまえから私に・・・欲しがるなんて」
 言いながら、ずんずんあたしの寝室に向かって歩き始める。
 カイルの肩越しに、三姉妹が泣きながらハンカチを振っているのが見えた。
 なんでみんな誤解してるの!?
 カイルが扉を蹴り開けた衝撃で(扉を開ける侍従が誰もそばにいなかった)あたしは大切なことを思い出した。
「カ、カイルお願いがあるの・・」
 ああ、作戦を練るひまもなかった。
 ちょっと色っぽい目つきで見るとか、ワインを勧めるとか・・。
 寝台にもつれ込むと同時に唇をふさがれたので、つづきの言葉も口に出来なかった。



 カイルの指が髪を梳いている。
 ぼんやり意識を取り戻しながら、あたしは急に作戦を思い出す。
 うなじに押し当てられる唇の感触に流されないように必死に考える。
 まず、甘い声で、『カイル、お願いがあるの』。
「やはり、だめだ」
 いきなりカイルが言った。背中越しに抱きしめられているので表情は見えない。
 だめって・・お願いする前から断られるなんて。
 ショックを受けているあたしの身体を、カイルは向き直らせた。
「だめ、なの?」
 カイルの顔がまともに見られない。そんなにきっぱり言わなくても。
「ああ、考えるだけでぞっとする」
 言いながら身震いしてカイルはあたしを抱き寄せた。
「おまえを置いて視察になど・・行けない」
 え?
 びっくりしているあたしに向かってカイルは続ける。
「やはり、キッズワトナには連れて行く」
 ・・・・えええええ!?
「私から、離れるな」
 続けて降りてきたキスを受けながら、あたしの頭は一つの言葉で占められていた。
 ・・・らっきぃぃぃっっ!!
 キッズワトナと言ったら、海がある!!泳げるんだ!!
 ハディに水着作ってもらわなきゃ!
 うわああ・・嬉しいっ!!
 一つ、の言葉じゃないけど。
「ところで、ユーリお願いってなんだ?」
 浮かれているあたしにカイルが訊いた。
「・・・」
 視察旅行に連れていって欲しいということだったんだけど。
 でも、カイル0Kしてくれたしねぇ。
 他に頼むこと思いつかないし・・。
 ちらりと見ると、窓の外はまだ明るかった。
 もしかして仕事を放りだしてきたんだろうか?
 ああ、かわいそうカイル。イルにまたなにか言われるんだ。
 楽あれば苦あり。ちょっと違うけど。
 あたしの手を取って指の付け根にキスを施しているカイルを見る。
 すごく幸せそうな顔だった。
「お願いってね・・」
 色っぽい声が出ただろうか?
「分かるでしょ?」
 まあ、誤解は誤解でも害はないしいいか。
「ああ、分かっているよ」
 カイルは嬉しそうに、また覆いかぶさってきた。
        
                          おわり

     

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