ナッキー☆パラサイト



 オリエントの宝石と詠われるバビロニアの首都バビロンは、夏の日差しがかげろうをゆらめかせる中けだるく横たわっていた。
 さらさらと水を流した王宮の中庭に、足音高く駆け込んできた者があったのは、そんな平和な午後だった。
「陛下、どちらにおられます、陛下?」
 バビロニア王は、泉水からゆっくりと立ち上がった。不快げに振り返る。
「ここだ・・・大声を出すでない。ひよちゃんが驚くだろう」
 今の今まで王の手からエサを食べていたひよちゃんは、があと鳴いた。
「おおそうか、驚いたなひよちゃん」
 目を細めて純白のアヒルを見る。
「申し訳ありません、陛下。しかし、外国に嫁がれた王女さまより書簡が!!」
 文官はそう言い、膝を着いて書簡を差し出した。
「なに、姫から?幼いながら我が国を守るために異国に嫁いだ姫からか?」
 王は言うと、さっそく書簡を取り上げた。
「間違いない、ナディアの字だ『お懐かしいお父さま、お元気ですか?』ああ、元気だとも。ひよちゃんも元気だぞ。『ナディアは、ここ、ミタンニの王太子様の後宮での暮らしにもなんとか慣れました』そうか、慣れたか。お前には苦労をかけたなあ『王太子様はあまりお話をされる方ではありませんが、ミタンニの国民の信頼を一身に集めておられます。国の重鎮としての責務はいかばかりでしょう。ナディアは一日もはやく、王太子様の心をお慰めし、支えとなれるよう頑張るつもりです』なんと、けなげな娘だ!なあ、ひよちゃん」
 バビロニア王は鼻をすすり上げた。ひよちゃんも、があと鳴いた。
「陛下、ヒッタイトに嫁がれたナキアさまからも・・」
 文官が、もう一通書簡を差し出した。
「なんと、ナキアからも?今日は嬉しい日だ、なあひよちゃん」
 があ
「なになに『おやさしいお父さま、お元気ですか?』元気だよ。『私、ナキアがヒッタイトの王宮に来てから、2ヶ月が経ちました』・・・もう、そんなになるのか?『ヒッタイトは、やはり新興国で、なにもかもが田舎臭いです』そりゃ、我が伝統を誇るバビロニアと較べればなあ。『とくに我慢がならないのは、寝所です』う、うーむ。年頃の娘から寝所のことを聞かされるとは・・・『寝台は硬いし、最悪。枕なんかおがくずが入っているのよ!』な、なんだそんなことか。『だから、お願い、お父さま。私に柔らかい羽根枕を送って下さい。お父さまの飼っていたアヒルそろそろ、大きくなっているはずよね?』なんとっ!?ひよちゃんを枕にしろと言うのか・・恐ろしい娘だ・・・」
 王はよろめいた。手から書簡が滑り落ちる。
 慌てて受け止めた文官が、続きに目を走らせた。
「陛下、ナキアさまは、宴会で着る衣装と宝石をいくつか送って欲しいと書いておられますが・・」
「い、いかん。ひよちゃんには手は出させんぞっ!!」
 国王はそう言うと、寵愛深いアヒルを抱き上げ、ばたばたと駆け去った。
「ああっ、陛下〜」
文官の声がむなしく後を追った。
 故国バビロニアがなにもしてくれなかったと、憎々しげにナキア姫が言い放つのは、後のことである。

                  おわり

   

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