千代子さんの奥にて5555番げっとのリクエストは「モロヘイヤのらぶらぶもの」モロヘイヤは、好きです。
秘密
あたしはカイルに秘密を持っている。
「いってらっしゃい」
後宮から、カイルを送り出す。彼の姿が見えなくなるのを確かめて、そっと抜け出す。
後宮のはずれの茂みを抜けたところ。
日当たりの良いその場所で、小脇に抱えた壺を傾ける。
「もうすぐ・・・食べ頃よね?」
一面に広がるモロヘイヤ。
このことは、秘密。
悲しい思い出のある、エジプトでの暮らし。その中で、あたしの心を慰めたのは、懐かしい日本の味だった。
モロヘイヤ。
その時まで、あたしは日本のスーパーで売られていたこの野菜が、エジプトのモノだなんて知らなかった。
てっきり「東北在住のもろへいじいさんがある日裏庭に生えている草をゆでて食べてみたら美味かった。そこで村の人々にも勧めてみた。その植物は評判になり、やがて東京の大学を出て村の農業指導員になっていた若者の研究により豊富な栄養が含まれていることが分かった。村はその植物に『モロヘイヤ』と名付けて売り出した」だと、思っていたのに。
ねっとりとしたモロヘイヤを噛みしめれば、懐かしいママの顔が浮かんだ。
だから。
内乱のどさくさにまぎれて、エジプトを抜け出すときに、この野菜の種を持ち出した。
いま、秘かに蒔いたモロヘイヤは、艶やかな葉を光にきらめかせている。
もうすぐ、食べ頃になる。ほんの少しずつ摘み取って、こっそりおひたしにしよう。
ポン酢があればいいけれど、酢でもなんとかいけるかも。
このことは、カイルには秘密。
あたしがエジプトの植物を育てているなんて、しかも日本のことを思い出しているなんて、知らせたくないから。
だから、あたしは秘かに水を撒く。
その朝、あたしがモロヘイヤ畑にやって来たとき、妙に青臭い匂いがした。
刈り取ったばかりの芝生の匂い。
茂みを抜けたあたしの前に、無惨な畑が広がる。
モロヘイヤが・・・ない!?
濃い緑が翻っていたあとには、突きだした茎が転がるばかり。
いったい、どうして?
庭師が雑草と間違えて刈り取ってしまったのかしら?
それとも、まさか・・カイルが!!
息を切らせて後宮に戻ったあたしに、待ちかまえたようにカイルが笑う。
「どうしたユーリ、そんなに慌てて」
どう、応えていいのか分からない。
「おまえに、見せたいものがある」
そう言うと、カイルはそっと合図する。
料理番が、籠を持って現れる。籠の中には・・・モロヘイヤ。
凍り付くあたしに、カイルは優しい声で言う。
「これは、雑草に見えるだろうが、モロヘイヤと言ってね、エジプトの植物で栄養があるんだ。庭師が偶然群生しているのを見つけてね。命じて全部刈り取らせた。おまえはもっと栄養をつけないと・・・」
カイルは驚いたように、あたしを見た。
「どうした、ユーリ?なぜ泣いているんだ?」
あたしはしゃくり上げながらも、言った。
「だって・・これは日本でもよく食べたもの」
カイルがあたしを抱きしめる。
「いくらでもあるからね、好きなだけお食べ」
カイルの腕の中で泣きじゃくりながら、あたしは思った。
酷い、カイル。全部刈り取らせるなんて・・。
少し残しておけば、種ができて・・・来年もモロヘイヤが食べられたのに。
おわり
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