「めぐり逢えたら」第6話

                                       by yukiさん

 AD・・・世紀   どこか


 隣からゆったりとした寝息が聞こえる。
 額にかかるやわらかな黒髪をすくいあげると微かな甘い香りが鼻をくすぐる。
 もともと体臭の無いカラダから薫ってきたのはきっとわたしからの移り香。
 いつも身に付けている馴染みの香りが甘くやわらかく薫ってくる。


 初めて会った時、他の男の腕の中で笑っていた。

 淡い色合いのドレスを身に纏いくるくると軽やかな動きに裾がふわりと舞っている。
「魅力的な娘でしょう?」
 突然声を掛けられ振り向くと先に来ていた弟の姿があった。
「なんだ、会場の女性は一通りチェック済みか?」
「人聞きが悪いですね。わたしも来て間が無いですよ」
 たいして気にしてるふうでもなく返してくる弟の視線は彼女から動かない。
「好みか?」
「ええ。お相手に立候補してきます」
 言うが早いか弟は彼女のところまで行ってしまった。
 声を掛けられた彼女は驚いたようだったが、弟が手にキスをしたところを見るとOKだったようだ。
 弟の腕の中で軽やかなステップを踏む姿を見ていると何故だかチクリと胸が疼いた。
 ついさっき初めて見たばかりで声すら聞いたことの無い相手に対して独占欲すら感じた。
 そうしてイライラと過ごしていると彼女が弟に手をひかれてやってきた。
「すっかり壁の花ですね」
「たまにはな」
「紹介しますねユーリ、兄のカイルです。
 兄上、こちらの素敵な女性はユーリです」
「はじめましてユーリ」
「・・・」
 わたしは彼女の手の甲にキスをして型通りの挨拶をしたが何の反応も返ってこない。
 不思議に思い顔を上げると、とても驚いた様子の瞳にぶつかった。
「どうかしましたか?」
「・・・。ごめんなさい」
 そう言うなり彼女は足早に離れていってしまった。
 呆然としている頭に弟の声が聞こえてきた。
「一体どうしたんです?知り合いですか?」
「いや、始めてだ」


 ずっとあの人のことが頭から離れない。
「カイル・・・」
 あの人の名前を言ってみる。
 初めて会った人でしかないはずなのに、その姿を見るなりドキドキした。
 とても素敵な人だったから誰でもひと目見るなりドキドキするかもしれない。
 でも、あたしのは違う。
『はじめましてユーリ』
 あの人はそう言ってたしやっぱり初対面だったんだと思う。
 でも、あの瞳もあの声も初めてじゃない。
 思い出せないけどずっと前から知ってるものだった。
 誰だったろう?
 とても大切な人の気がするのに思い出せない。
 もう一度会いたい。
 その場から逃げるように離れてしまったから怒っているだろうか?
 もっとも連絡先も知らないけれど・・・。
 
 それからしばらく経った日、あの人と再会した。
 空港でスーツ姿のあの人と。
「こんにちは」
 声をかけると彼はゆっくりと振り向き目を大きく見開いた。
「ユーリさん。久しぶりですね」
「覚えていてくれたんですね。
 あの時はごめんなさい。気を悪くされましたよね?」
「そんなことないですよ。
 今お時間ありますか?よかったらお茶でもいかがです?」
 あたし達は近くのホテルのお店に入り向かい合って座った。
 久しぶりに会ったけれどやっぱりずっと以前から知っているような気がした。
「どうしました?」
「え?」
「ずっと考え込んでいますね」
 彼はどうなんだろう?あたしと同じなんだろうか?
「あの、カイルさん」
「カイルでいいですよ」
「カイル、あなたとはこの前会ったのが初めてですよね?」
「どういうことです?」
「なんだかもっと前から知っているような気がして」
「奇遇ですね。わたしもですよ」
 それからふたりでお互いのことをいろいろと話した。
 家族のこと、これまでのこと、今の仕事のこと。
 やっぱりこれまでのあたし達には接点は無かった。
 なんとなく期待が外れてしまったような感じのあたしに彼が言った。
「ユーリ、わたしはあなたのことをもっと知りたい」


 ユーリの閉じられていた瞳がゆっくりと開きだす。
「おはようユーリ」
「・・・」
 まだ状況が飲み込めていないのだろう。
 わたしに気付くなり大きく瞳を見開いたきり黙りこくっている。
 わたし達は昨夜初めて夜を共に過ごした。
「あの・・・!あたし」
「大丈夫、何も心配は要らない」
 額と両頬に、最後に唇に口付ける。
「カイル・・・」
 その唇から漏れると自分の名前すらいつもと違ったものに聞こえる。
 自分の中の衝動を抑えきれずに華奢なカラダを抱き込み倒れこむ。
 全身でユーリの存在を感じる。
 今までどうして離れて生きてこれたのだろう?
「やっと逢えた」
「・・・?」
「ユーリに逢えるまでにとても永かった気がする」
「でも、逢えたんだよね?」
 答えの代わり抱きしめる腕に力を込める。
 共に過ごす時間が増えるほどかけがえの無い存在であることを実感する。
 もう離れることなどできない。
 今はまだ早いけれどいつか伝えよう。
 
 
「わたしと結婚して欲しい」



                           END  

        

「永遠が見える」

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