better half     お題:はじめまして



「ふつつかものですが、よろしくお願いいたします」
 床に座り、両手を揃えて深々と頭を下げたユーリに、カイルは儀礼用マントをはずそうとしていた手を止めた。
 うんざりするほど長かった祝いのための宴席がようやくお開きになってこの部屋に引き上げてきた。
 明日の朝だって、神殿への挨拶回りが待っている。とりあえず休もうと声をかけた矢先だった。
「突然なにを言い出す?」
 前に膝をつくと、ユーリの両手をとった。支点を奪われてよろめいた身体をすかさず腕に抱きしめる。
「だいたい、ふつつかものなどと。私はおまえを正妃にふさわしい女だと思っているのだが」
「そうじゃなくって、あたしの国では結婚の時にはこう挨拶するんだよ」
 真面目な顔をしようとして失敗し、口元を震わせながらユーリは言った。
 長い指が顔や髪に触れてくるのがくすぐったい。
「だから、カイルもちゃんと答えてくれなきゃだめ」
「どう答えるのがちゃんとしているんだ?」
 くすくすと笑うこめかみに唇で触れながらたずねる。指は編み込んだ髪をほどきはじめている。からんだ房を丁寧にほぐしてゆく。
「ええっと、たしか『こちらこそ至らない点はありますが、よろしくお願いします』って、言ってた」
「至らない点などないぞ?」
 編まれていたためにいつもより強く波打つ黒髪をなんども撫でつけながら、カイルは胸を張った。
「私はおまえにとって、最良の夫であるつもりだ」
「もうっ! こういう風に挨拶するのがきまりなの」
 頬をふくらませたユーリを抱く腕に力を込める。
「おまえの国ではまだるっこしいコトばかり言っているのだな? 私は、私の国の挨拶の方が好きだ」
「ヒッタイトにも挨拶の仕方があるの?」
「あたりまえだ」
 意外そうな顔をしたユーリを抱き上げると、寝台の上に腰掛けさせた。前にひざまずき、顔を見上げる。琥珀の瞳が、真っ直ぐに向けられた。
「夫は妻にこう言うんだ。『愛する人よ、これから共に生きてゆこう』」
 真剣な声だった。
 ユーリはちいさく息を飲み、カイルの顔を見返した。
 そう言えば、結婚式では互いの気持ちを確かめる言葉はなかった。共に生き、共に老いようと誓う言葉もなく、ただ、皇帝の傍らに立つ地位を与えられただけ。
 二人だけの今だからこそ、一番大切な人に誓おう。
 ユーリはゆっくりとうなずいた。
「……妻はこう答えるのね?」
 はじめまして、あたしの半身。これからはいつまでも一緒。
『あなたとなら、命尽きるまで』



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