blessing touch  お題:37.5



「カイルの身体って好きだな」
 ユーリの言葉に、一瞬カイルは固まった。
 日だまりの午後、大きく窓を開け放った居間で、寝椅子にゆったりと腰掛けたカイルはその腕の中にすっぽりとユーリを抱きかかえていた。
 広い胸にもたれて夢見心地に呟いたユーリは、そんなカイルの反応を引き起こした自分の言葉を口の中で反芻してみてその意味することに思いあたり赤くなった。
「……ち、違うの!そんな意味じゃないのっ!」
「どんな意味なんだ?」
 恥ずかしがるユーリに、ようやくいつもの余裕のある態度を取り戻したカイルは意地の悪い微笑を浮かべて訊ねた。
「私はおまえの珍しく大胆な言葉を喜んでいるのだが?」
 肩口から腰につながる曲線に指を走らせる。びくりと体を震わせたユーリの顎を持ち上げると、唇を舌先でなぞった。柔らかい唇に赤味が増す。
「だから、やらしい意味じゃないって」
 真っ赤な顔を背けて唇から逃れようとしながらユーリは言った。
「すぐにそっちばっかり考えるんだから!」
「そっちとは、なんだ?」
「もうっ!」
 耳朶を甘噛みするカイルの口を手のひら押しのけると、大げさに眉を吊り上げてみせる。
「ちゃんと聞いてよ」
「分かった分かった」
 笑いながらカイルはふたたびユーリを腕の中にしっかりとおさめた。
「聞かせてもらおう。私の身体のどんなところが好きなんだ?」
 なおも笑っているカイルの顔を恨めしげに眺めていたユーリはため息をつくと、くたりとその胸に顔を埋めた。あっさりと和解は成立する。
「あったかいところ」
「うん?」
「あったかくて大きくて、こうしているとすごく安心できる。ああ、あたしの居るべき場所はここなんだなぁ、って」
 言いながらまぶたを閉じる。
 カイルはその髪を梳かしながら、穏やかな声で訊ねた。
「あたりまえだ。私のそば以外にどこかに行きたいなんて思っているのか?」
「思ってないけど……でも、ここじゃないどこかにいる自分を考えると怖くなる」
 抱きしめる腕に力をこめた。一瞬、離れている二人を想像して脅える。
「そんなことは考えなくていい」
 こめかみに触れそうなほど唇を近づけてささやく。
「ここはおまえの居るべき場所だ。他のどこにも行かせない」
 自分自身にも言い聞かせるように。
「うん……」
 目を閉じたままのユーリの耳や頬の形を親指の腹で愛しげになぞりながらカイルは続けた。
「私もおまえの身体が好きだ。もちろん、『やらしい意味』もあるが」
 もう、と小さく非難の声を上げたユーリを更に強く抱きしめて腕に封じ込める。
 ほんの少しでも冷たい想像をさせたことをなじるように。
「だが、なにより私が、おまえがそばにいないと眠れないのを知っているだろう?」
 ユーリが静かに閉じていたまぶたを開いた。濡れた漆黒の瞳をのぞき込んで、カイルは真摯な表情を浮かべる。
「おまえの身体は暖かい」
「それはカイルが暖めてくれるからだよ」
「違う、おまえの身体の方が……むしろ、熱いな」
 凍える身体の隅々に血液を行き渡らせるほどに。力強く胸が鼓動を刻むのも、この熱があるからだ。
 ユーリは微笑するとゆっくりと喉をそらした。唇が口づけをせがんでわずかに開かれる。
「……それも、カイルのせいだから」
 言葉がかすかに濡れている。
「それは、『やらしい意味』なのか?」
 吐息のかかる距離に顔を近づけながらじらすようにカイルはささやいた。
 ユーリが笑った。
「……大好きよ、カイル?」
 吐息のように掠れる言葉に、カイルはあっさりと敗北を認めた。
 暖かい身体を抱きしめなおすと深く唇を重ねる。しなやかな腕が背中に回される。
 この時間がいつまでも続くことを願いながら、互いの体温と吐息がからまった。
                   
                                       クリア?

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