Sugar  お題:砂糖菓子



 汗ばんだ腕に引きよせられて、広い胸の中に抱きこまれる。
 これ以上ないぐらいに体温が上がっていると思った身体なのに、抱きしめるカイルの腕の方がずっと熱く感じられた。
 全力疾走をしたあとみたいな息づかいのまま、カイルの胸に顔を埋めた。カイルの心臓もあたしのに負けないくらいにドキドキ言ってる。
 頬やこめかみにカイルの唇が触れてきて、くすぐったい。
 髪に指をからめながらカイルがささやく。
「かわいいな、おまえは」
 背筋がぞくっとするような声。
 同時に身体に巻きつく腕に力が込められる。
 あたしはひとつ息をつくと顔をあげた。
「ホント?」
「本当だとも。もっと言ってやろうか?」
 すぐそばにある琥珀の瞳がやわらかく微笑んだので、思わず頬が赤くなった。
 いつも見慣れているはずなのに、こうして見つめられるといまだに胸が苦しくなる。
 カイルの指が頬にそえられ唇が重ねられる。触れるだけでなんどもくり返される口づけ。
 同時にくり返されるカイルの言葉。
「……おまえはかわいい。それに綺麗だ」
 うっとりと聴き惚れるような声なのに、ふとおかしくなった。
「なんだ? 私はおかしなことを言ったか?」
 あたしが笑ったからだろう、瞳をのぞき込みながら不思議そうにカイルが訊ねる。
「ううん違うの」
 くすくす笑いのまま、カイルの背中に腕をまわして抱きついた。
「だって、こんな風に言われるなんて考えたことがなかったんだもん」
 カイルに出会うまで、あたしのことを綺麗だなんて言ってくれる人はいなかった。
 男の子の友達は多かったけど、みんなあっさりさっぱり男同士のようなおつき合い。
 あたしだって、心ときめかせる相手はいたわけだけど、女らしさとは無縁だったし。
 クラスの他の子が星占いなんかを読みながらリップの色を変えてみようなんて言い合ってる同じ教室で、あたしは男の子たちと昨日の野球のゲームの話なんかしていた。
 女の子らしく振る舞うのにはなんだか照れを感じた。
 だって、チビだし、ガリガリで胸もないし。女友達が身体の線の柔らかさを増していくなかで、あたしだけがいつまでも男の子みたいだった。
「どうして考えたことがなかったんだ?」
 カイルの指があたしの髪を優しく梳く。
「……あたしって女らしくなかったし」
 今だってお色気むんむんってわけにはいかないけど。それでも、カイルになぞられる肩の線や、手のひらで包まれる腰の形がなだらかに丸みを帯びているのを知っている。
 考えたら、あたしの身体が変わったのはカイルが触れたからなのかも知れない。
 カイルの手はいつも優しくて、あたしが女の子なんだって教えてくれる。
「たしかに、色気はなかったな。だが、出会った時からかわいいと思ったぞ?」
 ほら、言葉だってふんだんに。
 女の子を女の子にするには、たっぷりの優しい言葉が必要なんだ。
「じゃあ、今は色気がある?」
 少しだけ背は伸びたけど、あいかわらずチビのまま。腕だって足だって棒きれのようにがりがりだけど、カイルならきっと言ってくれる。
「私に言わせたいのか?それとも、別の方法で教えて欲しいか?」
 肩をつかまれたので、離れてしまった胸もとに風がすべりこんで少し淋しい。
 もう一度身体をすり寄せる代わりに、あたしは鼻にかかった声でささやく。
「……どっちも」
 カイルがあんまりもの惜しみしないので、あたしもずいぶん贅沢になった。
 浴びるほどの愛情を注がれながら、いつだってそれ以上にカイルに満たされたいと願ってしまう。
「そんなところは、色っぽいな」
 言うとカイルは、肌寒さを感じていたあたしの胸に顔を埋めた。
 ふくらみの先端に歯がたてられる。
 あたしは思わず小さく声をあげてカイルの頭を抱きしめる。
 まぶたを閉じるとカイルの言葉が耳に心地よくすべり込んでくる。
「それに、おまえの身体は……甘い」
 それはカイルの腕の中にいるからだよ。
 身体の上をさまよいはじめたカイルの指と唇に、あたしは胸の中でつぶやく。
 カイルがいつも愛してくれるから。
──── 甘い言葉と指先が、女の子を砂糖細工に変えるんだよ。
 

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