酔いどれバナナ共同作品

皇帝夫婦・愛と涙の治療日記

4 きくえさん

結:大団円編


どれほど時間が経ったのか、気がつくとユーリはベッドに身を預け、カイルから愛撫を受けていた。
「…ユーリ……ユーリ…」
 そして、まるで呪文の様に、繰り返し、繰り返し囁きながら唇を、ユーリの身体の至る所に這わせているカイルの姿がそこにあった。
 ユーリはその顔を見ようとしたが、いつのまにか日が沈んでしまっていたのだろう。部屋は暗く、その表情をはっきり見て取る事は出来なかった。
「カイル…治った・・の…?」
 自分の身体の充実感から、それは聞かなくてもはっきりと感じ取っていた。しかし、確認せずにはいられない、ユーリのその声は震えていた。
 カイルは、ふっとその顔を沈めていた小山から上げた。そして、掌でユーリの両頬を挟んでその顔を覗き込んだ。
「わたしが治ったかどうかは……お前が一番解っているだろう?お前のおかげだよ、ユーリ」
 少し掠れた声で言うカイルの顔は、まるで女神を…いや、光を見るように、眩しい表情をしていた。
     お前のおかげ    
 その一言で、ユーリの心はまるで羽の様に軽くなった気がした。
 カイルの唇は、ユーリの次々と溢れてくる涙を掬い取ると、首筋を辿って下へと降りて行った。同時にその手はユーリの太腿に伸ていき、再びその身体を味わい始めた。
「…んっ…はっ……カイ…ル…」
 ユーリの息があがり、溜息が漏れてくるのを見て取ると、カイルは再びユーリの中へと入っていった。
「あっ…ああ〜〜っ!!」
 歓喜の声を上げたユーリは、自分の身体がまるで水になってしまったかの様な感覚を覚えた……


 「ユーリ様…本当にようございました」
天岩戸と化した扉の前で、3姉妹は嬉しさのあまりむせび泣いていた。
ユーリとカイルが寝所へ入ってから、既に数日経つ。つまり、カイルが治ったと言うことなのだ。これで、あの…「媚薬」という名の、得体の知れないものを作った甲斐があったと言うものだ。
 「ハディ、お二人はまだ御寝所に?」
本日の分の政務を終えたイル・バーニが、様子を見にやって来た。心なしか、生気が見られない。
 「イル・バーニ様!はい。まだ、出ていらっしゃるご様子はありませんわ。陛下が治られて、本当によろしゅうございました。」
熱い目頭を押さえながら、ハディは答えた。
 「…そうか…出てらっしゃるご様子は無いか…」
イル・バーニはハディとは対照的に、沈んだ声で呟いた。
皇帝、皇妃の両名が寝所に篭ってから毎日、イル・バーニは二人の分の政務もこなしていたのだ。自分の分も含めれば三人分、重要な採決をする必要が無いとは言え、激務となる。
確かに、数日前までは、政務が滞ることを期待していた。しかし、ここまで自分に負担がかかるとなると…話は別となってくる。
 「ご夫婦の危機だったのですよ?」
(数日ぐらい、いいではないか) 
そんな批判を、暗に含む物言いだった。忠臣の6個の瞳が、冷たくイル・バーニを見つめている。
 「その通りだな。」
人の気も知らないで……そう言ってやりたかったが、止めておいた。ここで言っていても仕方が無い。
3姉妹は、二人が寝所から出てこないことで単純に、治ったと思って喜んでいる。
しかし、イル・バーニはそう楽観視できなかった。
もう一度、懐妊ということにならないと、「完治」したとは言えないと考えているのだ。
1ヶ月のインターバルがあるのだから、陛下もユーリ様が身篭られない限り、夜を控えるという事はなさらないだろう。
それまでは……なんとか頑張るしかないな…
 「お二人の事は頼んだぞ。」
よろめきながら、イル・バーニはその場を後にした……


 「カ…カイル・・…あの・・ね…」
ユーリはカイルの下で、息も切れ切れに話しかけた。
もう、あれから何日経ったのかすら分らなくなっている。
 「ん?なんだい?」
数日前までとは、全く別人の様に生き生きとしたカイルは、満面の笑顔で応えた。
 「そろそろ、出ていかない…っと……はっ…お仕事…たまっちゃう、よっ…」
ユーリが話している間も、カイルはその手を休める事はしなかった。それどころか、太腿を撫で上げていた右手は、どんどん柔らかい深みへと移動していく。口も赤い頂きを含んだままだ。ユーリは、まともに話す事なんて出来ない状態となっている。
 「ああ…イルが上手く処理しているさ。それよりも……」
そう言うと、カイルは身体を反転させた。
必然的に、ユーリがカイルの上に乗る形となったが、恥ずかしくて顔を上げられない。
 「また、わたしが教えた事をしてもらおうかな。
  ちゃんと覚えているのか…復習だよ。」
カイルは意地悪な笑顔を見せて、黒髪を弄びながら囁いた。
 「そ、そんな…できないよ…」
カイルの言葉を聞いて反射的に顔を上げたが、自分がした事を思い出すと、顔から火が出るかのように熱くなった。
反抗の言葉も、最後は聞き取れないほど小さくなっていく。
羞恥心のあまり、自分の上で小さくなっていくユーリを見て、カイルの胸は愛おしさでいっぱいとなった。
 「だったら……もう一度だけ教えてやろう。それで、わたしからの授業は終わりだ。
  その次は…できるだろう?」
カイルは細い首に腕を廻し、再びユーリを組み敷くと、耳朶を口に含みながら囁いた。
もう、何度目となるのだろう?
二人の身体は幾度となく熱を帯び、その度に、互いに己の全てを与えていった。


    3ヶ月後     

イル・バーニの読みは当っていた。
来る日も来る日も、政務を早々に切り上げて、後宮に通い詰めている皇帝の姿がそこにあった。
そして、いつもの様にユーリの部屋を訪れたが、何かが普段と違っていた。
扉が開かれ、カイルが部屋へと入ってくる。
 「お疲れ様、カイル!」
笑顔でユーリが迎える。
 「では、私達はこれで失礼致します。」
毎日繰り返される、同じセリフ。
しかし、この日のハディ達の顔は、何か…笑いたいのを我慢しているような表情を浮かべていた。
 「何か、楽しい事でもあったのか?」
下がっていった3姉妹を見遣り、再び視線をユーリに戻すと、ユーリも笑いを堪えている様だった。
 「さぁ?一体何があったのでしょう?」
ユーリは長椅子に座り、そ知らぬ顔で、ワインを注いだカップをカイルに差し出した。
それを受け取り、一口だけ口をつけると、ユーリの問いに答える準備をする。
 「わたしに秘密はいけないな。」
ユーリの顎を捕らえ、口付けを交わしながら手を下へと運んで行き、ベッドへと移動する。
そして、手が胸元に入っていった時、カイルの手首をユーリの手が優しく掴んだ。
 「ダメ…」
 「ユーリ?」
笑顔で拒絶するユーリに、カイルは戸惑いを隠しきれない。
ユーリがカイルの下から出ると、カイルも体を起して、ベッドの上で二人向き合う形を取る。
ユーリは、いぶかしむカイルの手を取って、自分の腹部へと導いた。
 「赤ちゃんが出来たみたいなの」
そう言ったユーリの頬はバラ色に染まり、照れくさそうに目を伏せている。
 「ほっ本当なのか?!」
全く予想外の言葉を聞かされたカイルは、思わずユーリの両肩を掴んで叫んだ。
顔を上げて、満面の笑顔を浮かべたユーリは、左肩に置かれた手を移動させて、頬擦りをした。
 「ん…今日、お医者様に診察してもらったから間違いないよ。3ヶ月ぐらいだって!」
信じられないといったような表情をしていたカイルは、ユーリの身体をまるで壊れ物に触るように、優しく包み込んだ。
 「ありがとう、ユーリ…」

   ようやく、カイルは悪夢から解放されたのだ    
ユーリは広い肩に頭を預けながら、そんな事を考えていた。
 「新年祭には間に合うかな?」
来年には顔を見る事ができるであろう、新しい家族を思い描きながら、また騒々しい日々が来ることを考える。
そんな、普通の幸せが何よりも大切なものなのだと、改めて気付かされた4ヶ月だった…。


                      おわり

   

    

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